「口から宝石を」~人生を変えるひと言~

学校

この記事を見つけていただき、ありがとうございます。

「何を言うか」ではなく、「誰が言うか」。

指導する教員が生徒に信頼されていないと、指導は入っていきません。

信頼されるために、まず必要なことは生徒との「関わり」を意図的に作ることです。

そこで今回は、生徒との「関わり」を作る時に、私が心がけていることをお伝えします。

最後まで読んでいただければ嬉しいです。

こんな人に読んでもらいたい

生徒との関わりを持つ時に、迷うことが多い先生方

この記事を読んで得られるもの

生徒との関わりを持つ時の「考え方」を確立できる

私のコンプレックス

高校教師になって以来、私にはコンプレックスがあった。

それは、何を隠そう「国語の授業」である。

私は、教師になるまで、最も「国語」の勉強をしてこなかった人ではないかと思う。

ラグビーにしか興味がなかった高校時代。

私の最も嫌いな科目は「国語」だった。

特に、大の苦手は「古文」。恥ずかしながら、テストで赤点を取ることもしばしばあった。

その後、ラグビーで進学が決まった私の下へ、大学から連絡が来た。

「学部はどこを希望しますか?」

「どこでもいいです。」

ラグビーのことしか頭になく、勉学に励む気持ちがなかった私は、即答した。

そうしたら、大学から示された学部は、何と・・・。

「文学部 国語文学科」!!!

私が大学で、「国語」の教員免許を取ることができたのは、ラグビーをやっていることを評価してくれる教授に、たまたま当たったからだ。ただただ、運が良かっただけだ。

そして、自衛隊に入隊。

11年間、「国語」の授業について考えたことなど、一度も無かった。

こうして私は、教師になるまで、ほとんど「国語」というものを学んでこなかった。

そんな私が何と、高校生を前にして「国語」の授業を毎日行うことになったのだ。

しかも初任校は、ほとんどの生徒が大学進学を目指す、学力の高い「進学指導推進校」と決まった。

覚悟を決めて、十数年ぶりに現代文と古文の教科書を開く。

「羅生門」「こころ」「山月記」・・・  何だこの難解な小説たちは!

「ら・り・り・る・れ・れ・・・・」? 何だこの呪文は!

全く頭に入らない・・・・。

目の前の教材をどう教えるのか、さっぱり分からない・・・。

高校時代、勉強をサボってきたツケが、社会人になってから回ってきた。

こんな状況で、4月から教員となり、教壇に立つことになった私。

当然、おせじにも「国語の授業」とは言えない毎日が続く。

少しでも周りの先生方から学ぼうと、時間を見つけて授業見学に行った。

すると、先生方の素晴らしい授業を目の当たりにし、私との雲泥の差を痛感。

「自分は生徒に、何も教えられていない・・・」

更に落ち込む日々。

こんな生活がこのままずっと続くのかと思うと、表情は暗くなるばかりだった。

「あの頃は、楽しかったなあ・・・充実していたなあ・・・」

こんな私でも、周りの隊員から頼りにされ、役に立てているという感覚を味わえていた、自衛官時代。

「戻れるものなら、また自衛官として生きていきたいなあ・・・」

「自分は教員には向いてないんだろうなあ・・・」

とにかく今の生活から逃げ出したかった。

ネガティブな感情しか湧いてこなかった。

教師でありながら、自らの「国語授業」に対し、苦手意識を持ち、日々苦痛を感じていた。

悪夢のような出来事

そんな中、私を更なる窮地に追い込む出来事が起こった。

一学期がようやく終わり、私は「やっと授業地獄から抜け出せる」と開放感に浸っていた。

一方、校内では、進学希望者を対象とした夏期講習が行われていた。

「自分には関係のないことだ」と油断しまくり、ラグビー部の練習メニューを楽しく考えていた時だった。

慌ただしく職員室に入ってきた先輩の先生から、私は衝撃的な言葉を聞くことになる。

「夏期講習、担当してもらうことになったから、準備しといてね。」

予定されていた先生に、急遽予定が入り、何と私に出番が回ってきたのだ!

まさに「青天の霹靂!」

しかも科目は、私の最も苦手とする「古典文法」だった。

大学受験を乗り越えていない者が、大学受験を乗り越えようとする高校生に、受験古文を分かりやすく教える。

古文を拒否し続けてきた者が、受験目前の高校生に、古典文法を分かりやすく教える。

突如、私の前に、果てしなく聳え立つ、大きな大きな山が現われたのだ。

講座開始まで、残り時間はあとわずか。

途方に暮れている場合ではなかった。

すぐに受験参考書を買い漁り、時間を見つけて読みまくった。

高校の頃にお世話になった国語の先生や国立大の国文科を卒業した自衛官の同期に連絡。

分からない箇所を質問しまくった。

やれることは何でもやった。

まさに「なりふり構わず!!

人生を変えた忘れられない一言

こうして迎えた夏期講習。

付け焼刃の知識だったこともあり、当然ながらうまくはいかなかった。

生徒に申し訳ない気持ちで一杯だった。

三日間の講義を終え、浮かない表情をして教室を後にする。

すると、ある生徒が私の後を付いてきた。

思わず、こちらからその生徒に声を掛けた。

「君たちのプラスになるような授業ができず、すまなかったね。」

「三日間ありがとうございました。先生の授業、自分は好きですよ。

「えっ!」

しばらく沈黙が続いた。

返答できなかった。

相も変わらず、ひどい内容だった私の授業。

自分で自分の授業が嫌いでしょうがなかった。

でも、そんな私の授業を肯定してくれる人が、初めて目の前に現われたのだ。

驚きとともに、胸がじわーっと温かくなるのを感じた。

「自分は今の自分を受け入れていいんだ!」

自分を初めて肯定することができた瞬間だった。

そして、笑顔でその生徒に別れを告げながら、心の中で誓った。

「もっと勉強しよう!」

「もっと国語の授業ときちんと向き合おう!」

「もっと生徒に良いものを還元できる教師になろう!」

本当の意味で、教員としての人生がスタートした瞬間だった。

人間この不思議なるもの

「先生の授業、自分は好きですよ。」

生徒にとり、日常の中で、軽い気持ちでつぶやいた一言。

でもこの一言は、私にとり、暗かった日常の中で、人生に明るい光を注ぎこんでくれた、 とてつもなく重たい言葉となった。

人間はとても不思議な生き物だと思う。

自分に自信が持てず、暗い気持ちで生きている人がいる。でも、そんな人でも、誰かのたった一言で、自信と勇気を取り戻し、生まれ変わることができる。

とても脆く、とても強い生き物が人間だ。

学校現場で過ごしていると、正直、腹が立ち、生徒を憎らしく思うことも多々ある。

やってはいけないことを平気でやってしまう生徒達。

教師を試すかのように、何度言っても同じことを繰り返す生徒達。

そんな生徒達に、時には自分の感情を露わにし、大声を挙げて叱ることもある。

でも、時間が経ち、冷静になって振り返ってみると、きっと彼らは、これまで不健全な家庭や環境の中で育ち、満たされない何かが心の中にあるのだろうと、思えてくる。

だから、否定的な側面ばかりに目を奪われずに、少しでも前向きで積極的な側面を見つけて大げさなくらい評価することも忘れない教師でいたいとも思う。

書くことが苦手・自分の文章が嫌いという生徒が多い中、授業で文章を書かせる。

生徒の書いたものを読んで「ここがいいね!」「ここが気に入った!」「この表現好きだな!」を大げさに伝える。

身の周りの整理整頓が苦手な生徒が多い中、ごみをゴミ箱に捨てる生徒を見つける。

「おお、ありがとう!」「助かるよ!」「ゴミが落ちてないと気持ちがいい!」を大げさに伝える。

眼光鋭く、教師に反抗的な生徒が、落ちかかっていた掲示物に画鋲を貼っていたのを見つける。

「〇〇サンキュー、そのままにしておくと破れて落ちてしまい教室が汚くなるんだよな」と大げさに伝える。

もしかしたら、この一言が、今までの嫌なことを忘れ、前向きに生きるきっかけになるかもしれない。

もしかしたら、この一言が、自分に自信が持てなかった生徒にとって、自らを肯定して強く生きるきっかけになるかもしれない。

否定面のベクトルを受けとめつつも、積極的なベクトルを思い切って評価し、励まし伸ばすことで、マイナス面を克服できるかもしれない。

人間は一言で生まれ変われる、強い生き物だから。

まとめ

「口からは宝石を」

美輪明宏さんの本を読んで、見つけた言葉だ。

かつて、どん底にいた私は、たった一人の、宝石のような輝く一言で、「自分には価値があるんだ」と思えたことがあった。

教師として、生徒に厳しい要求をする時もある。生徒に迎合する教師になる気は毛頭ない。

ただ、時として、宝石のように美しい行いをしている生徒に出くわす場面がある。

そんな時は、宝石のようにキラキラ輝く、感謝の一言を、誰よりも大げさに伝えたい。

「ありがとう!!!」

「君のおがけだ!!!」

ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

これからも、このブログをよろしくお願いいたします。

さあ、今日も生徒の前で元気だしていきましょう。

「元気があれば何でもできる!」

最後に昭和初期に活躍され、日本の教育者に多大な影響を与えた森信三氏の言葉を紹介して終わります。

~苦しい目に出遭ったら~

人間苦しい目に出遭ったら、自分をそういう目に遭わせた人を恨むよりも、自分のこれまでの歩みの誤っていたことに気がつかねばなりません。

『修身教授録 一日一言』森信三著 致知出版社

コメント

タイトルとURLをコピーしました