部隊赴任~待っていた現実~

自衛隊

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「自衛隊」についてもっと知りたいと思っている方

人生で苦しいステージに立たされている方

この記事を読んで得られるもの

自衛官に入隊したら、どんな生活が待っているのかを知ることができる。

人はどんな時にもがき苦しむのかを知ることができる。

待ちに待った部隊勤務

八か月に及ぶ基礎教育を終え、私はついに部隊勤務を命じられた

入隊以来、この日を迎えるまでの期間は、寸暇を惜しむ充実したものだった。

分刻みで次々と行われる教育訓練、日本の防衛という崇高な使命を巡る仲間たちとの熱い語らい、そして厳しさの中にも温かさがあった教官たちとの心の触れ合い――。

身も心も、一人前の自衛官となるための礎は、確かにここに築かれた。

いよいよ実任務に就けるのだと思うと、期待に胸が高鳴った

駐屯地の門をくぐり、目の前に聳え立つ富士の山を見上げた時、その雄大な姿が、私の新たな門出を静かに祝ってくれているように感じられた。

待機場所に通されるやいなや、私は逸る気持ちを抑えきれず、すぐに制服を脱ぎ捨て戦闘服に腕を通そうとした。
その矢先、配属中隊の方から拍子抜けする一言が飛んできた。

「特に今日は何もないから、自分の部屋でゆっくりしてていいよ。

「あ、はい。わかりました。」

張り詰めていた闘志が、一気に霧散した。初日から血反吐を吐くような訓練を覚悟していた身としては、この静かなる命令は、あまりにも肩透かしだった。

自分の居住部屋に通され、私は気を取り直して、まずは基本だと同部屋になる方々に向かって大きな声であいさつをした。

「○○です。今日からよろしくお願いいたします!」

反応は薄かった。ベッドで寝転がっていた人が視線を向けただけだ。別の隅からは、テレビゲームの電子音が途切れることなく聞こえてくる。

心の中の違和感

示された自分の空間で荷物の整理をしながら、私は内心首を傾げた。
「なぜ、こんな昼間からベッドで寝ているのだろう? なぜ、ゲームができるのだろう?」

明らかに、想像していた生活とは何かが違った。この日の気の抜けた空気は、翌日から始まるであろう激しい訓練の前触れに違いない。

――そう思い込み、私は床に就いた。

しかし、翌日課されたのは数日後に迫る駐屯地開放日で使う団扇作りだった。その次の日は、補給倉庫の物品整理。次の次の日は、駐屯地内の清掃。単調な作業で一日が終わる。カレンダーの数字だけが虚しく進んでいく。

このような毎日がしばらく続き、張り詰めた緊張感を失わせるには十分であった。

そして、私は焦ってきた。実任務部隊員として、厳しい訓練に励み、汗水たらしながら、緊張に包まれる日々はいつ来るのだろう。

精神的な拍子抜けと、この先への不安が勝り、腐っていくようなとてつもない虚無感に私は覆われた。

「自衛隊って、毎日厳しい訓練をするんじゃなかったのか?」

「まさか定年まで、こうした一日を繰り返すのだろうか?」
そんな問いが、一日中頭の中を駆け巡っていた。

忘れられない勤務

部隊勤務開始から2か月ほど経ったこの日は、演習場の監視任務だった。射撃訓練の間、立ち入り禁止区域に人が入らないよう見張るのが仕事だった。誰も来ない原野を、ただひたすらに見つめ続ける。結局、一日を通して誰も現れなかった。
任務を終え、迎えのトラックを待っていると、西の空にゆっくりと沈んでいく太陽が見えた。

その姿が、未来を失いかけている自分とあまりに重なった。
私の人生も、このまま誰に知られることもなく、静かに沈んでいくのだろうか。
そう思った瞬間、こらえきれず、涙が頬を伝った。

一縷の望み

そんなある日、失意の底に沈んでいた私の目に、駐屯地の片隅で一枚のポスターが飛び込んできた。

「第一空挺団」――。

パラシュートを背負い、ヘリコプターから大空へと颯爽と身を投じる精鋭たちの姿。その勇姿を目にした瞬間、消えかけていた心の灯が再び激しく燃え上がるのを感じた。「ここだ、ここしかない。ここなら、心躍る充実した日々を送れるはずだ!」

私は一縷(いちる)の望みを抱き、上司のもとへ向かった。そして、震える声を押し殺しながら、真っ直ぐに想いをぶつけた。「空挺団に行かせてください!」

しかし、返ってきたのは、あまりに冷酷な一言だった。
「それは無理だ」

食い気味に放たれた即答。その一言が、私の淡い期待を無残に打ち砕いた。

私は再び、深い絶望の淵へと突き落とされた。

当時の私

さて、当時の自分に問いたい。「一体、誰が悪かったのか?」と。
そもそも、部隊に赴任したばかりの一兵卒に、重要な任務が回ってくるはずなどない。それは自分の地位や能力を考えれば自明のことだ。しかし当時の私は、その現実から目をそらし、不満の矛先を周囲に向けていた。己の未熟さを棚に上げ、ただ不平不満を募らせていただけだったのだ。

さらに言えば、部隊には訓練以外にも膨大な業務がある。私が就いた任務がいかに単調で誰にでも務まるものであっても、部隊を動かすためには欠かせない歯車だったのだ。
部隊活動においては、個人の感情よりも組織の要求が優先される。それは当然の理だ。私は、組織人として「与えられた役割を果たす」という、あまりにも基本的な自覚を持っていなかった。すべて自分が蒔いた種であり、自分の責任だったのだ。

退職の決意

しかし、当時の私には、そこまで思いを巡らせる余裕など微塵もなかった。

虚無感に苛まれる日々の中で、その後私の中にふつふつと湧き上がってきた感情があった。

「自衛官を辞めたい」

日々生死の境を彷徨うような過酷な訓練に身を投じること。それこそが自衛官としての唯一の生き様だと信じて疑わなかったからだ。

だが、現実は違った。目指すべき道が断たれたと知った今、心に湧き上がるのは後ろ向きな感情ばかりだった。

「退職の意思を伝えるべきか、それともこのまま胸に秘めておくべきか」。答えの出ない葛藤を抱えたまま、カレンダーは年末年始の休暇を告げた。

この休暇中に、揺るぎない決断を下そう。そして休みが明けたら、迷わず退職願を提出する――。そんな固い決意を鞄に詰め込み、私は重い足取りで駐屯地の門をあとにした。


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